PROJECT STORY02

Principal Dimensions: Len. 142.8 m × Bre. 50.0 m × Dep. 11.0 m
Gross Tonnage: 23,539 GT
Service Speed: 11 knots
Maximum Complement: 130 persons
Class: ClassNK (Nippon Kaiji Kyokai)
Port of Registry: Tokyo
Propulsion System: Azimuth thrusters (3,800 kW × 3 units)
Thrusters: Retractable azimuth thruster (3,200 kW × 1 unit)
Tunnel thrusters (3,200 kW × 2 units)
Generators: 4,630 kW × 4 units, 1,425 kW × 2 units
Jacking System: Electric rack-and-pinion drive
Legs: 92 m × 4 legs
Main Crane: Telescopic slewing crane;
Max. lifting capacity 2,500 t (retracted), 1,250 t (extended)

Self-Elevating Platform

BLUE WIND

大型SEP船「BLUE WIND」建造
プロジェクトストーリー

01洋上に、風車を建てろ

2023年1月31日、大型SEP船「BLUE WIND」が引き渡された。洋上風力発電の巨大な風車を、海の上に建てるための専用船である。15MW級の風車にも対応する、世界最大級の自航式SEP船だ。当社は国内で唯一、SEP船を建造してきた造船所である。ただし、実績があったとはいえ、これまで建造した船と比べて遥かに大きなSEP船。数々の難関を乗り越えなければならないプロジェクトとなった。異業種との商習慣の壁、造船の常識を超える精度、そして誰も予期しなかったコロナウィルスによる感染症。契約から引渡まで、実に3年半。その間に起きた数々のドラマ。完成するまでに何があったのかを振り返る。

富山県 入善町での風車設置工事の様子 (清水建設殿ご提供)

02日本の洋上風力を担う

2050年のカーボンニュートラルをめざし、再生可能エネルギーの有力な手段と期待されているのが洋上風力発電だ。四方を海に囲まれた日本にとって、海に風車を建てられるかがエネルギーの未来を左右する。ただし、それは容易ではない。風車は年々巨大化し、基礎となる構造や風車は数百トンから千トンを超える。それらを基地港から運び、海の上でミリ単位の精度で組み上げなければならない。だが船は波で揺れる。高さ150mの先端が揺れていては、風車は立たない。ならば、どうするか。出した答えは、船を浮かべないことだった。4本の脚(レグ)を海底に固定させ、船体をジャッキアップして海面から持ち上げる。波の届かない高さまで上がれば、揺れない。海の上に、陸をつくるのだ。水深10mから65mの海域でそれを可能にする、唯一の船。それがこのSEP船である。

清水建設殿HPから
SEP船の構成

03造船と建設の、あいだで

船は、建造期間も金額も莫大になるプロジェクト。だからこそ契約は慎重に、丁寧に行われる。本プロジェクトでは、この契約がまずは大きな関門であった。テーブルの向こうにいたのは、これまで当社が向き合ってきた海運会社でも、海洋土木を担うマリンコントラクターでもなかった。5大スーパーゼネコンの一角、清水建設である。

発端は2018年8月。福島の浮体式洋上風力発電プロジェクトでコンソーシアムを組んでいた清水建設から、SEP船の話を聞きたいという連絡が入った。同社の本社を訪ねると、大型の着床式ウインドファーム建設をめざすという。清水建設とは工場設備工事で長い付き合いがある。昭和40年代に当社の呉事業所のドック拡張工事を手がけたのも清水建設。企業同士の縁はあったが、当社が清水建設の船を建造するのは初めてである。

同年12月、清水建設側からはSEP船設計の最大手、オランダ・GustoMSC社の基本設計での建造を検討しているとの連絡。翌2019年2月には入札説明会。見積作業が始まり、競合他社との競争となった。当社が優位に立てたのは、2018年にJMUアムテックで国内初のSEP船「CP-8001」を建造した実績と、その基本設計を担ったGustoMSC社との関係があったからだ。相手の要求とリスクを理解した上で対応できる点が評価された。同年5月に内示、7月に建造契約を結ぶに至った。

しかし、この契約が一筋縄ではいかなかった。造船業と建設業では、契約の慣行がまるで違う。たとえば保証期間や補償範囲。建設業では業界における標準な考え方があるが、船には国際的な取引で培われた別の基準がある。会社間としてお互いどこが譲歩できるのか。条文一つひとつの理由の本質まで立ち戻って整理し、役員クラスまで巻き込んで合意形成を重ねた。契約着地までに要した時間は、想定を遥かに超えるものだった。

五洋建設殿「CP-8001」

04未知の構造に、備える

受注の手応えが見えはじめた頃、技術チームでも未知の海洋構造物に挑む準備が進んでいた。当社にはSEP船「CP-8001」を建造した経験がある。ただし本船は、昇降方式が歯車でレグを動かすラック&ピニオン方式と呼ばれる方式で、「CP-8001」とはタイプがまるで違っていた。基本設計はGustoMSC社が担うが、現場に落とし込むための情報は驚くほど少ない。経験は、そのままでは使えなかったのである。

そこで立ち上げたのが、Working Group(WG)だった。一般の船にはない特殊な構造や機器について、設計から製造、搭載、調整、試験終了までを一貫してフォローする。そのためにメンバーを完成まで固定したチームである。メーカーを含む関係者で情報を洗い出し、整理し、共有する。製作要領と必要期間を、ゼロから描き起こしていった。

本船の規模は、社内でも異例だった。基本設計フェーズには30名以上が関わり、一般商船の数倍のコストがかかる大プロジェクト。問題が起これば大変なことになると、社内には危惧する声が多々あった。期待も注目も、そして心配も、同時に集まっていたのである。

造るべきものも前例がなかった。全長92mの4本のレグは日本で鋼材を加工し、シンガポールで組み立てて再び日本へ運び、呉で下半分、相生で上半分を搭載して溶接でつないだ。レグを動かし船体を持ち上げる歯車機構の昇降装置はレグ1本あたり24基、4本で計96基におよぶ。主にドイツで製作されたパーツを呉で組み上げ、ひとつずつ船体に搭載していく。揚重能力2,500トン、揚重高さ158mのクレーンには、消防のはしご車のようにブームを伸ばすテレスコピック機構を採用した。この規模のクレーンでの採用は、世界初の試みであった。

ジャッキングストラクチャと昇降装置
テレスコピック機構付きメインクレーン
レグ製作の様子(シンガポールにて)
レグ搭載の様子(相生にて)

051ミリ以下の、攻防

この船を造る上で重要になるポイントは何か。それを技術チームは早い段階で見抜いていた。ジャッキングストラクチャである。SEP船は4本のレグを海底に固定させ、船体を持ち上げて自立する。つまり1万トンを超える船体を、たった4点で支えることになる。通常の船は浮力によって船体全体で船の全重量を受け止める。4点で全重量を引き受ける構造など、通常の船には存在しない。その力を一身に受けるのが、レグと船体をつなぐジャッキングストラクチャだ。だからこそ超高張力鋼が使われ、その板厚は厚いところでは100mmにもおよぶ。分厚い鋼材の塊である。

ところが、その塊に昇降装置という精密な機器を差し込まなければならない。ここに、造船の常識が通用しない領域があった。ジャッキングストラクチャに求められた精度は、1mm以下。更に昇降装置を受ける穴は0.1mm単位での精度が求められた。船の構造は本来、数mmから数cmの余裕の中でつくられる。コンマ何ミリで精度を語る世界ではないのだ。位置がずれれば歯車が噛み合わず、レグの昇降そのものが成立しなくなる。WGメンバーはGustoMSC社の技術者と直接対話し、要求の意図を一つひとつ確認・協議し、現場で展開できる精度要領にまとめ上げた。設計者の言葉を、造る側の言葉へ翻訳する作業だった。

紙の上では、答えが出ていたが、現場はその通りにいかない。搭載後に計測すると、目標となる精度に対して僅かな誤差が発見された。日照と溶接の熱が、巨大な鋼材と船体そのものを想定よりも大きく変形させていたのだ。WGメンバーが集められたのは19時。必ずしも不適合とは言えないが、万が一の可能性を残したくない。しかし何時間もかけて仮付けした部材を今更やり直すのか。誰も切り出せず、沈黙が続いた。勇気を持ってその沈黙を破ったのは、現場の担当スタッフだった。「やり直しましょう」。覚悟を決め、その日の夜のうちにすべてをバラし、翌朝4時から再び取り付けた。精度は確保された。

ジャッキングストラクチャ搭載 ①
ジャッキングストラクチャ搭載 ②
ジャッキングストラクチャ取付精度計測 ①
ジャッキングストラクチャ取付精度計測 ②

06最後の壁と、その先へ

そして最後に立ちはだかった壁は、技術ではなかった。新型コロナウイルスである。レグはシンガポールから、大型クレーンは中国から、昇降装置はヨーロッパから届く。だが検査に行けない。そして何より、造船所で行う最終調整は装置を製作した海外の技術者でなければできない。その彼らが、入国できなかった。当社は清水建設とともに国土交通省の海事局へと足を運び、申請書類を整えて特別な入国許可を取得した。入国した技術者の管理はすべてJMUの担当。空港からの移動を管理し、14日間のホテルでの隔離期間中も毎日彼らの健康状態を確認し、その結果を国へ報告し続ける。この行政対応を中心になって担ったのは、若手の営業担当者だった。メンバーの奮闘もあり2023年1月31日、無事本船は引き渡された。

2021年4月にブロック搭載を開始し、安全祈願祭を経て、レグが立ち上がり、クレーンのブームが載る。2022年7月にはレグの上半分を搭載のため明石海峡大橋をくぐって相生へ、10月に命名式を迎えた。船の名は「BLUE WIND」。呉に戻って船の昇降試験とクレーン荷重試験を終え、船は洋上へと出ていった。そして、絶対にミスをしてはいけないと社内でもプレッシャーの目にさらされ続けたプロジェクトは無事終りを迎えた。プロジェクトチームの挑戦は、前人未到の活躍が認められ特別社長賞が贈られた。

就航後の「BLUE WIND」は、富山県入善町、北海道石狩湾新港、そして台湾へと渡り、風車設置工事の最前線に立ち続けている。当社はこのBLUE WINDの建造により国内で唯一、3隻のSEP船を手がけた造船所となり、また世界最大級のSEP船を造った造船会社として世界の洋上風力関係者に広く認知されることになった。だが洋上風力の時代は、まだ始まったばかりだ。海底地質調査船、ケーブル敷設船、アンカーハンドリングタグ(AHT)。海に風車を建て、支えるための船は、これからも生まれ続ける。海に立つ次の一隻の担当は、まだ決まっていない。それを設計し、交渉し、現場で決断するのは、これから仲間になるあなたかもしれない。

明石海峡大橋通過
ジャッキアップ試験