流体技術
波と風を読み、
船の性能を引き出す技術力で、
世界の最前線をゆく。
流体技術開発の概要
液体や気体のように、一定の形を持たず、変形しながら流れていく物質を取り扱う力学のことを言います。
水と空気の密度は800倍もの違いがあるため、船が受ける抵抗は水と空気で大きく異なります。
船が航行する際には、海面上の空気と海面下の水の両方に船が同時に接することになるため、流体によって生じる性能は船の性能に直結する非常に重要な要素です。
JMUでは、船舶・海洋構造物を取り巻く水や空気の流れに注目し、流体の特性を考慮しながら抵抗や流れの乱れを限りなく減らすことで、船の形状の最適化を追求し、燃費性能や安全性の向上のために流体性能を最大限引き出す技術の研究をおこなっています。
ピックアップ
船首形状
波の中を航行する際の抵抗を低減する船首形状として、Ax-Bow®、LEADGE-Bow®、SP-Bow®を開発実用化しています。 このうちAx-Bow®は2001年に初めて実船適用されたものであり、船首形状の改善により波浪中航行時の抵抗低減に成功した世界初の技術です。
シーマージン(※1)の低さや、燃費性能、高操船性(※2)など、流体の基礎技術をベースにした高度な性能は大きな強みと言えます。
- ※1 シーマージン: 実海域を航行時に遭遇する風や波が性能に及ぼす影響(速力低下、燃料消費増加)
- ※2 高操船性: 舵利きがよく操縦が容易であること
水槽試験
トップレベルの技術開発を可能にするのが、JMUの持つ水槽設備です。 流体技術の研究に欠かせない水槽試験ですが、JMUにはさまざまな海の状況を再現したり、より実際のスケールに近い大きな試験ができる水槽など、国内有数の充実した設備を保有しています。
これからの展望
近年の地球温暖化問題の深刻化に伴い、船舶からの温室効果ガス削減のために船舶の省エネ化の重要性はさらに高まっています。
私たちの強みでもある高い燃費性能や、波や風の抵抗低減をかなえる様々な開発は、環境配慮の観点でも注目されている領域のため、今後も更なる改善を進めていきます。
また、そうした技術の精度を上げていくためにも、大学などの研究機関と連携し、より詳細なシミュレーションが行えるデジタル技術の展開にも取り組んでいます。
研究開発の詳細
省エネダクトとSURF-BULB®
SSD®(※1)及び半円ダクト(※2)は、VLCCやBC等の肥大船が船尾近くに生成する縦渦のエネルギーを回収して推力を発生させること等により、燃費を3~8%程度改善します。
プロペラ後方に設置するSURF-BULB®(※3)と併用することにより、更なる燃費削減が可能となります。
SURF-BULB®は、プロペラが推力を発生する際に生成するプロペラ後方の旋回流のエネルギーを回収することにより推力を発生し、燃費を3~5%程度改善します。
VLCCやBC等の肥大船では、プロペラ前方に設置する省エネダクトと併用することにより、更なる燃費削減が可能となります。
- ※1 SSD®: Super Stream Duct®
- ※2 半円ダクト: Semi-Circular Duct
- ※3 SURF-BULB®: Swept-back Up-thrusting Rudder Fin with BULB
二重反転プロペラと舵バルブ
二重反転プロペラ(CRP※)とは、同一軸上前後に取り付けた2基のプロペラを互いに逆方向に回す省エネ装置です。 これにより、前プロペラで損失される回転流のエネルギーを回収し、推進力に変えることにより推進性能が向上します。 現在、VLCCやBulk Carrier、電気推進船に採用され、燃費改善およびCO2、NOx、SOx等の排出量低減による環境負荷低減を実現します。
二重反転プロペラでは後方の旋回流がなくなるので、SURF-BULB®のフィンをとった舵バルブを装着します。
※CRP: Contra-Rotating Propeller
L.V. Fin
L.V. Fin(※)はプロペラ前方の船尾に左右一対で取り付けられた三角形のフィンであり、主として船尾の下降流を整流し、船体抵抗を低減する効果を有します。 肥大船で2~3%馬力低減効果が海上公試にて確認されており、単純形状で工作も容易な省エネ装置として数多くの実船に装備されています。
※L.V. Fin: Low Viscous resistance Fin
風圧抵抗低減
隅切型居住区を採用することにより、居住区周りの流れがスムーズになるため、風圧抵抗を10%~15%程度低減させることができます。 シーマージン低減型船首と共に、実海域でのシーマージンを低減する技術として実用化されています。