氷海域で真価を発揮する、
JMUのオンリーワン技術。


氷海技術開発の概要R&D Overview

氷海とは、一面に氷の張った海。 また、氷山や氷盤が数多く浮かんでいる海を指します。

通常、船は障害物を避けて航行するものですが、氷海を進むための船舶は、行く手を阻む氷にぶつかっていくような環境下で航行することが大きな特徴です。
JMUでは、砕氷船(※)をはじめとする氷海船舶の開発と、それを支える基盤技術の研究開発を通して、北極や南極といった「極域」と呼ばれる海域でのミッション(観測、資源開発支援、輸送等)に欠かせない機能を提供しています。

砕氷船: 文字どおり、氷を砕き割って航行する船。 一般の船より頑丈で大きなパワーを持ちます。

砕氷艦(南極観測船)「しらせ」

ピックアップPickup

砕氷船というのは、氷海でも氷を砕きながら航路を切り開くことができる機能を持っています。 通常だと、氷を割ることに長けている代わりに、氷のない海をゆくのは不向きなのが砕氷船。
JMUでは、氷を割る性能と氷のない海を航行する性能を、用途に応じてバランスさせる研究を世界に先駆けて実施し、高度な技術力によってそれを実現してきました。
そうした技術力と共に、船舶の開発に必要な氷海の環境を再現できる「氷海水槽」を民間企業として国内で唯一持っていることもJMUの大きな特徴です。 (2023年1月時点)

氷海水槽の映像
平坦氷中試験
流氷中試験
ブラッシュアイス中試験
初期旋回試験

これからの展望Vision

氷海水槽試験の結果が重要であることは現在も変わりはありませんが、氷海水槽で行える試験には限りがあり、模型製作にも時間を要するため、事前評価のためのシミュレーション技術にも取組んでいます。 今後は、先端技術を取り入れ、より高度なシミュレーション技術を発展させていきます。 そうして基盤技術を強化し、氷のない海を航行する性能とのバランスを考慮した船型の最適化や、より地球環境を考慮した氷海船舶の開発などに力を入れていきます。
日本を代表する氷海船舶の造り手として技術を追求・維持していきたいと考えています。


研究開発の詳細R&D Detail

氷中抵抗の数値計算

氷海船舶の船型開発では、氷海水槽試験による総合的な性能評価の前に、数値計算によって抵抗分布を把握しながら、船型を纏めていきます。 氷盤を破壊する時の抵抗、砕氷片を沈める時の抵抗、砕氷片を押分ける時の抵抗等を考慮して船体表面上の抵抗分布を推定し、改善点を探求することによって、効率的な船型開発を目指しています。

氷中抵抗の数値計算シミュレーション図

個別要素法を用いた数値シミュレーション技術

流氷やブラッシュアイスなど、小さな氷盤や氷片が集まってできた氷状を用いた氷海水槽試験は、氷の成型や氷状のセッティングが必要なために、非常に大きな労力や時間を必要とします。 そこで、迅速な性能評価のため、個別要素法を用いた数値シミュレーションの開発を進めており、氷海水槽試験を補完するものとして機能することが期待されています。

数値シミュレーション例(流氷中):実験
数値シミュレーション例(流氷中):計算
数値シミュレーション例(ブラッシュアイス中)
実験結果と計算結果の比較

砕氷船型の最適化技術

砕氷船の氷を割る性能と氷のない海を航行する性能は相反するものです。 砕氷船の用途によって、性能バランスが異なります。 従来、人の手を介して船型の調整が行われてきましたが、最適化計算の活用により、効率的な船型開発が可能になってきました。 現在、実運用に向けた本手法の改良を進めています。

最適化計算例(船首)

船首散水による雪抵抗の低減

海氷の上に積もった乾いた雪の抵抗は意外に大きく、特にラミング時には雪の摩擦に加えて、積雪がダンパーのように氷盤に衝突したときのエネルギーを吸収し、砕氷性能を低下させます。
散水装置は、船底から汲み上げた海水を船首部に配置されたノズルから海氷上の積雪に放出するもので、積雪を湿潤化することで、船体表面との摩擦や積雪のダンパー作用を低減します。 特にラミング時の効果について研究を重ね、南極観測船に適用されました。

船首散水中のしらせ
船首散水効果確認試験

排氷促進船型

船首で砕かれ沈みこんだ氷片を船の外側に排除しやすくし、船体との干渉を小さくすることができる船型を開発しました。 排氷性能を向上させることによって、氷片による摩擦抵抗やプロペラとの干渉を小さくすることができます。 南極観測船、砕氷型巡視船、流氷観光船に適用されています。 また、北極域研究船「みらいII」にも適用されることになりました。

排氷促進船型の試験

画像解析技術による氷片流れの定量化

船体周りの氷片の分布や運動(氷片流れ)は船体が受ける抵抗や氷片とプロペラの干渉に対して密接な関わりがあるため、船型の評価を行う上で非常に重要な現象です。 また、氷片流れを定量的に評価することができれば、数値シミュレーションの精度向上に活用することができます。 そこで、画像解析技術を活用して氷海水槽試験の映像を解析することで、氷片の流れを定量的/自動的に評価する手法を開発しました。 現在はより安定して精度の高い解析手法に取組んでいます。

氷片の抽出例
氷片の追跡例:船首側(逆再生)
氷片の追跡例:船尾側(順再生)

高耐食ステンレスクラッド鋼(※)の適用による船体表面の長期低摩擦状態の保持

砕氷船の船体表面には海氷や雪が作用して塗装が剥がれやすく、粗度の増大や腐食によって海氷との摩擦が大きくなります。 表面状態の悪化を防ぐ砕氷船に適した材料として、JFEスチールとともに耐食性に優れた新しいステンレスクラッド鋼を適用する研究を進めてきました。 南極観測船「しらせ」に適用され、優れた性能を発揮しています。 その実績を受け、北極域研究船「みらいII」にも適用されることになりました。

ステンレスクラッド鋼: 母材としての鋼板と合せ材としてのステンレスを接合した複合鋼板。

ステンレスクラッドの説明図

氷海航行支援技術

氷海船舶の運航は、海域、季節によって変化する海氷の状態に左右されます。 氷海船舶が計画された航路・運航時期に対応可能か、経済性、航海日程の視点からその性能を評価することは重要です。 下記の図は性能評価の一例で、A地点からB地点までの氷海域を航行する際、その航路上で遭遇する海氷密接度(ある海域の海面に対する氷に覆われた面積比のこと。 0/10~10/10で表記)に対する船速の変化を示したものです。 このように、氷海域での航行支援に関する研究にも取り組んでいます。

※北極データアーカイブシステム(NIPR/ADS)より
氷海航行シミュレーションの概要